
今回の村上春樹の「壁・・・」の話のこと。彼の物語にしてはわりとすんなりと腑に落ちた。何故なら「あちらの世界」と「こちらの世界」ということを常に考えていたからだ。実際この言葉がでてきて驚いた。なにか相通じるようなものがある気がしたからだ。自分の表現ということを考えて行くと、いつの間にか「あちらの世界」に入り込んでゆく。例えばここにリンゴがあるとする。これを寸分たがわぬように描写したとする。リアルに描けば描くほど称賛されて「写真のようだ」と言われる。普通写真というのは現実の世界を切り取ったものだ。そのルールは我々の暮らしている現実の世界と同じだから分かりやすい。天は天であり地は地となる。雨は空から降って太陽は東から昇る。光が左から当たれば影は右に出来る。そういう共通の認識の上に我々は暮らしている。作られた世界もそうであろうという前提で出来ている。それを疑うことはない。だけれども、そうではない世界というのもあるのではないか。自分が創造した世界では雨は地から降って太陽は西から昇るかもしれない。そういうルールを自分でこしらえたわけだから。ただし、その世界は現実の世界から隔離されていなければならない。だから結界をはる。それが額縁だな。・・・