はる 5434
絵の事でよく覚えていることがある。随分昔の話だけれど、幼稚園の学芸会の時だった。小学校の頃の事はあまり覚えていないのだけれど、何故か幼稚園の事はよく覚えている。器楽演奏の発表会があってその後ろに子供たちの絵を展示するという企画だった。模造紙3枚くらいの大きさの紙に園児がてんでに好きな絵を描くという、まぁよくある企画だな。
何を描いたのか自分の事はまるっきり覚えていないのだが、一応自分の中では絵は得意だという意識があったのだろうな。みんなが一斉に描きだしても私には余裕があった、自分より上手い奴はいないとね。でいつも活発に発言したり、ピアノを弾いたり、ちょっと体の大きいおませな女の子が隣にいた。絵は私の方がたぶん上手だろうと思っていたんだろうな。
ちらりと隣を見て驚いた。模造紙いっぱいぐらいのデカい緑色のカマキリを何のためらいもなく一気に描いた。小さな小さなアリンコみたいなものを描いていた、我々男児組は完全にその場を飲まれてしまった。完全に負けたと思った。凄い奴がこの世の中にはいるもんだと、一気に世界が広がったのを覚えている。
あれから幾星霜、彼女は今頃どうしているだろうか。