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あそびべのHARU・ここだけの日々
画家・榎並和春

野村篤・著「蕭状の旅人(しょうじょうのたびびと)」 - 2009.02.16(ポケットの窓から)






 

はる 2799

 アトリエに入ってはいるが、さりとて絵を描く気にもなれずパソコンに向かっている。大体午前中に一筆置かなければ午後からも仕事がはかどらないことは分かってはいるのだが、どうもだらだらとすごしてしまう。悪い癖だ。



 考えてみると学生時代の勉強のスタイルもこれに似て能率の悪い、集中力の欠けるものだった。時間ばかりかけるけれど、はかの行かない野良仕事だ。こうやって反省して直るかといえば、ほとんど変わらない。人の性格というのは死んでも直らんということだな。



 知り合いの作家はアトリエには後ろ向きに入るといっていた。何だろう、その気持ちはわかる。好きで選んだ道だけど、やっぱりサラリーマンのように時間どおりには行かない。人によってはタイムスケジュールできっちり仕事をする人がいるようですが、私には向いていない。のべつ幕なしだらだらと仕事をしているような遊んでいるような、まことに始末が悪い。



 やらなければならないことは山の如しだけれど、午後から借りていた本を読む。



 野村篤という方の「蕭状の旅人(しょうじょう)」・画家ゴッホの記録 というなかなかの労作だ。作品は例の「ゴッホの書簡集」をもとに実際に現地を何度も訪れて、たたずんでいたであろう場所に立って感想を書いている。だから新しい発見もあったり、今までの評伝などより臨場感ある文章が述べられているいるように思った。



 ゴッホは日本人の好きな画家のベスト3にはいる作家だ。すでに歴史上の人物であるしあまりにも有名だから随分と昔の作家のように勘違いするけれど、1853年生まれだから私と百年違うだけだ。あのピカソにしても私が子供の頃には実在していた人物なのだから意外に身近にいたわけだ。



 私が最初に買った画集がゴッホだった。なぜゴッホだったのか?といえば、要するに分かりやすいということだろうな。油彩の作家には勿論色んな画家がいるわけだけれど、印象派以前の絵は暗くて脂っぽくて何かそれぞれに意味がありそうで分かりにくい。ギリシャ以降の西欧の哲学や宗教その他もろもろの教養が必要そうに見える。



 それに比べて印象派以降の絵画は、そう(好きか嫌い)ですんでしまいそうな気楽さがある。何よりも色がきれいだ。テーマが風景が多くて静物や人物にしても風俗画のようでとっつきやすい。まぁそういった事情で印象派の作家が好まれる理由だな。特にゴッホは例の耳きり事件があったり、最後がピストル自殺するというショッキングな死に方だったので、映画や本になりやすかったということもある。



 ところが実際に「ゴッホ書簡集」などを読むと分かることなんだが、ゴッホという人は実にまじめで真摯な性格な人だ。よくある芸術家気取りのいいかげんなボヘミアンではない。反対に生真面目すぎてまわりに迷惑をかける、まぁ融通のきかない、空気の読めない田舎者といえばそうかもしれない。



 気が狂って前後不覚で死んだわけではない。反対にそうなって人に迷惑をかけるかもしれないという恐れから死を選択したのだ。そこのところも実に誤解されているように思う。



 一番好きな個所を無断で書き写しておきます。「ファン・ゴッホ書簡全集」より

 「画家は、死に、埋葬されるが、かれにとって最も重要なことは、その作品のよって次のせだい、相次ぐ世代のかたりかけることだ。したがって画家の生涯にとって、おそらく死は最大の困難ではないだろう。こうして夜空を見上げていると僕は思う、フランスの地図上に黒く点点と記された町や村には行くことができるのに、なぜ天のいたるところに輝く星にはいけないのだろうか。・・中略・・蒸気船や乗合馬車や鉄道が地上の交通機関であるように、コレラや肺結核や癌は天井の交通機関であると考えられなくも無い。老衰して静かに死ぬのは、歩いてゆくようなものだろう」

 



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comment(2)

 
No title 
 不思議なご縁で、野村さんは東京の個展にきてくれました。非常に紳士で几帳面な方という印象でした。この本は借りたものでまた貸しすることができません。すんません。ながくベルギーに滞在していたそうで、その間にこの本を書かれたようです。よく調べてあり、実際にその場に出かけて書いているので読んでいて面白いです。

 ではまた。

No title 
野村さんの本、面白そうですから読んでみます。中学生の頃、ゴッホの「馬鈴薯を食う人々」を見て(もちろん画集で)、忘れられない一枚になりました。ブリヂストン美術館にあるルオーの「郊外のキリスト」とこの絵がぼくにとってのかけがえのない絵です。
ゴッホの手紙を読んでいると、この人は本質的に宗教的な人なのだなと思わずにはいられません。榎並さんが引用されておられるところなど、特にそんな感じが強くします。

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