
はる 5940
毎年この時期は絵を描くより下地作りに追われている。途中まではすべて同じような職人のような仕事なのである意味淡々とやって行くしかない。こういった単純な仕事は嫌いではない。どんなに多くてもやって行けばやがては終わりが見えてくる。絵描きといっても一日絵ばかり描いている訳ではなく、こういった単純な職人仕事が入ることで精神的なバランスが取れているように思うな。
いつからこういった下地に作りになったのかよく覚えていない。誰かに習ったわけでもない。試行錯誤しているうちに段々にこういう形になってきたものだ。一番影響を受けたのはキリスト教の祭壇画などやイコンの制作過程かな。1992年の目黒美術館で大規模なロシアイコン展があって見に行った。その展覧会はイコンそのものもそうだったけれど、修復過程などを見せる展覧会でもあった。当時そういった中世の絵画に興味を持っていたものだから、興味深く見た覚えがある。
イコンは一枚の厚い板を周りを額縁のように残して彫り込んで、くりぬいた中を石膏でつくった下地材(ジェッソ)を何回も塗ってフタットにして、その上に膠で麻布を貼ってその後また何回かジェッソを塗りこんで下地を作ってある。何故麻布を貼りこんだのか理由はよくわからないのだけれど、想像するに画面の補強という面が大きかったのでないかな。一枚の板の場合乾燥によって割れてしまう可能性が大きいのだな。それを防ぐという意味合いが大きかったのじゃないだろうか。
日本の漆細工である漆器なども単に漆だけを何度も塗りこんだものより麻布を蒔いた漆器の方が強いわけだな。それと同じような理由ではないだろうか。そこから反対に布目が一つの意匠として面白い効果を生んでいるという事もある。よくは知らないが戦の甲冑などもそんな細工をしているように思う。
私の場合、ほとんど見た目の効果だけしか気にしていないのだけれど、隅の方にみえる綿布のきめの細かさとざっくりした麻布の肌合いの違いが面白いとおもっている。マチエールが私の絵の最も大事な売りだと思っているのでね。